第58回全国学校体育研究大会 埼玉大会 視察報告

菅野 弘和

川俣町立川俣中学校 保健体育科


 

研究の視点】

 視点1 指導と評価の一体化を図った単元案・単元計画の作成

    指導内容の明確化

    発達の段階を踏まえているか

    2年間のまとまりを考慮して(小・中学校)、学年間の見通しをもっているか。

    資質・能力の3つの柱のバランスの取れた指導内容となっているか。

    評価の工夫

    1時間の評価の観点は、原則一つとすることで、指導と評価が一体となるようにした。

 

    評価場面の複数化、多面的な評価方法

 埼玉県教育委員会では「埼玉県学校体育必携」をさいたま市教育委員会では「さいたま市の学校体育」を毎年春に発刊している。その中で「学習指導計画作成上の留意点」を示しており、県内各地で共有できる指導案作成ができるようになっている。

 

 視点2 主体的・対話的で深いを目指した指導の工夫 

   教材・教具の工夫

    興味・関心の喚起、持続ができる教材・教具であるか。

    誰でも楽しさを味わえる教材・教具であるか。

    安心して夢中になれる場となっているか。

    学習過程の工夫

    既習内容等、易しい課題から取り組めるようになっているか。

    自己の思いや願い、能力に応じて、目標をもてるようになっているか。

    目標達成に向け、課題とその解決方法を知る場面が設定されているか。

    自己の能力やチームの特徴に応じて課題を選び、課題解決のための活動を決める場面が設定されているか。

    課題解決のために、必要性のある対話場面が設定されているか。

    成果を確認し、振り返る場面が設定されているか。

    全体を通して、子供たちの思考の流れを考慮しているか。

    学習形態の工夫

    一斉学習

    グループ学習(ペア学習、トリオ学習、チーム学習)

    個別学習

 

【分科会場別主題】(中学校のみ掲載)

第6分科会:さいたま市立原山中学校

「主体的・対話的な学習を図る指導の工夫~『見つける』『考える』『実践する』学びをつなげる~」

 第7分科会:さいたま市立与野西中学校

「豊かな『思考力、判断力、表現力等』を育むことで技能向上を目指す授業づくり」

 第8分科会:川口市立南中学校

「主体的・対話的で深い学びを実現する保健体育学習

~単元の特性に応じた効果的な学習指導の工夫~」

 第9分科会:埼玉大学教育学部附属中学校

 

「『主体的・対話的で深い学び』の実現に向けた授業改善~自己の思考を深め、課題をより良く解決することができる生徒の育成~」

 

 

 埼玉大会では、その他に幼稚園が1分科会、小学校が4分科会、高等学校が2分科会、特別支援学校が1分科会、計8分科会においても発表が行われた。

  【さいたま市立原山中学校の研究内容】

原山中学校では、研究主題を「主体的・対話的な学習を図る指導の工夫~『見つける』『考える』『実践する』学びをつなげる~」をとし、研究を進めてきた。

体育分野では、生徒の将来的な実生活を見通したパフォーマンス課題を取り入れ、主体的・対話的な学習活動を展開するとともに、性差や技能差を軽減し誰もが輝ける混成ルールを導入・工夫したゲーム学習を中心とする活動を行えば課題解決能力やコミュニケーション能力が向上するであろうと考え、研究を進めてきた。

保健分野では、主体的・対話的な学習活動を取り入れることで、「見つける」「考える」「実践する」資質・能力を育み、それらを実生活の学びへつなげることができると考え、実際に遭遇するであろう身近な事例を設定し、既習の内容を生かして対応することで、課題解決能力が向上すると考え研究を進めてきた。

【公開授業① 3年生バスケットボール 8/12時間】

 単元の計画としては、メインのゲームをオールコートの4対4として、シュートコントロール、ゲーム学習が中心の学習内容であった。単元計画の中でもっとも特徴的なものが、学習形態の工夫であった。原山中学校では、共生社会を見据え、性差や技能差を考慮した等質グループを編成した。また、学習場面に応じてペアやトリオ学習を進め、性や競技経験等の違いを互いに尊重しながら誰もが楽しめる態度の寛容を意識した指導を行っていた。特に技能の低い生徒に対して配慮あるプレイをする生徒を褒めたり、苦手な生徒が積極的にゲームへ参加する行動を褒めたりしていた。単元を通しての授業の流れは、チームでウォーミングアップ、シュート練習、ゲームという流れである。本時では、メインゲームとメインゲームの間に「仲間とゲームを楽しむための取り組み方の振り返りと達成状況の確認」があり、ペアで、活動状況を評価し合った後に、「私がバスケットボールを嫌いになった理由」・「みんなが笑顔でバスケットボールを楽しむために」という思いを綴った手紙を教師が朗読し、仲間とともにバスケットボールを楽しむための活動の方法や、修正を考えさせる場面を設定していたのが印象的であった。

 

第58回全国学校体育研究大会 埼玉大会 視察報告

【性差や技能差を考慮したルールの工夫】

第58回全国学校体育研究大会 埼玉大会 視察報告

【ウォーミングアップの場の設定】


【公開授業② 2年生保健「傷害の防止」(エ)応急手当 5/5時間】

 

 単元計画では、1~4時間に応急手当の原則・止血法、包帯法、固定法、RICE法、運搬法、心肺蘇生法について実習を含めた学習を行い、本時では自分たちの生活の中で起こりうるかも知れない事例に対処する実習授業を計画した。本時では、3クラス合同の授業で、全18班に分かれ、2つの班が兄弟班となる。傷害事例を6つ挙げ、各班は、その一つの事例を担当する。互いの実習の様子を兄弟班が評価し合うという流れであった。各班は事例に対し、必要な行動を想起し、役割分担、必要な用具を選び、応急手当を実施する。大勢の参加者が見つめる中、生徒達はテキパキと実習を進める姿が印象的であった。

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【事例に応じた応急手当】

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【応急手当に関する物品一覧】

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【行動フローチャート】


  さいたま市では、「体育活動時における事故対応テキスト~ASUKAモデル」を作成し、小学生では心肺蘇生法トレーニングキット「あっぱくんライト」を使用した心肺蘇生法に好いて学習している。また、原山中学校ではAED の使用を含む心肺蘇生法については、1年生で訓練用人形を用いて学習を行っているとのことであった。

          

【研究発表・協議】…キーワードは男女共習・共生社会・インクルーシブ教育

 研究の概要説明の後、指導助言者である茨城大学教授吉野聡氏からは、中学校学習指導要領解説保健体育編(平成29年7月)でも明示されている「男女共習を原則とする」という課題に向けてぜひ研究を積み重ねてほしいという話があった。来年度の福井大会でもぜひ研究してほしいともあった。

 

 今後も、「主体的・対話的で深い学び」の実現に向けて各校とも研究をしながらも、原山中学校のように、男女差・技能差・関わり方をどう調整し、どの子も満足するような体育学習を展開するかがこれからの課題であると感じた。

 


【そのほかの報告者】

 町野 瑛 (いわき光洋高等学校 保健体育科)